結論:正しくない。ワークソングばかりではないし、ラブソングもたくさんある。
説明:
『輪るピングドラム』の幾原監督は雑誌インタビューで以下のように発言している。
自分の中でARBはずっとブレていなかったんですよね。 70年代、80年代というあの時代に、基本的には恋愛の歌を歌わず、ワーク・ソング(労働者の歌)だけを歌っていた。 <<オトナアニメVol.22(洋泉社) p.60>> |
ARBが活動していた当時(I〜III期)、確かにそのようなイメージで語られることもあったが、実際はラブソングもいっぱいあるし、ワークソングの数がそんなに多いわけでもない。幾原監督の発言は、当時の印象をちょっと大げさに言っただけだろうから、別にその発言を責めたりするつもりは全く無いのだけど、ただ事実を述べてみたい。
まず、本当はイメージほどワークソングは多くないというエピソードを紹介しよう。
「ARB=ワークソング」というイメージを事務所が重視したのだろうか、1986年、『WORK
SONGS』というワークソングを集めたベスト盤が企画されたのはいいが、そもそもそんなにワークソングの持ち歌が多くないので、バンドの代表曲とは言いがたい微妙な曲も収録。(当時はCDではなくレコードなので収録時間はせいぜい50〜60分なのに)それでも曲数は足りず、『ロックンローラー』『踊り娘ルシア』という2曲の新曲をつくって収録。この2曲とも、確かにまぁ職業には違いないかもしれないが、ワークソングと呼ぶには若干強引だ、と感じる人も居ないとは言えない内容だった。
ただし同時期に、ワークソングと呼べるような曲を売りにしていたバンドは他にいなかった。それも事実。
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次にラブソングは無かったという件だが、たしかに例えばオフコースやチューリップのような、やわらかめのラブソング(自分を「僕」と呼び、相手を「君」と呼ぶような、ARBのようなバンドからは“甘ったるいラブソング”と呼ばれていた歌詞世界の曲)は、ほとんど無かった。が、恋愛や女性を扱った曲はとてもたくさんある。同時期に活躍したRoostersやMODSと同様、自分が「俺/おいら」で相手が「お前」で、硬派というか、不良っぽい(当時ヤンキーという言葉は無かったw)というか、まぁそういうラブソングである。
例えば第I期の代表作と言われるアルバム『W』(全11曲収録)には、『二人のバラッド』『愛しておくれ』『クレイジー・ラブ』と3曲のラブソングが収録されている。
ちなみに、ARBと仲が良かったアナーキー(※)は、ラブソングがほとんど無かったと思う。(※最近、同名のラッパーがいるみたいだけど、もちろんそっちではなくバンドのほう)
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ところで、最後にちょっと違う話題を。
ARBには、ワークソングやラブソングの他に、社会ソングというかなんというか、あ、「メッセージソング」というのかな、「社会派バンド」と呼ばれていた理由にもなる曲が結構ある。新聞に載った事件を題材にしたり、戦争反対を歌ったり、自殺などの社会問題を扱ったり。『輪るピングドラム』で使われた『BAD NEWS』もそのひとつだ。代表的な曲を以下に紹介する。
楽曲タイトル | 初出アルバム | コメント |
喝! | A.R.B. | 「今日もどっかの阿呆がビルから飛び降りちまったぜ。恋人の最後の手紙を懐に入れて」という歌い出しの曲。アイドル・バンドのデビュー・アルバムのはずなのに、こんな曲が入ってます。 |
BAD NEWS | BAD NEWS | 平和な日本の裏側で、今も世界のどこかでクーデターが起きている、というような歌詞の曲だと思うけど、その後、日本でも安全神話が崩れて・・・ |
赤いラブレター | Boys & Girls | 第二次大戦時の、徴兵の赤紙をラブレターにたとえ、「赤いラブレター、マダムから届いた、若い男に次々に出すのさ」と歌う。 |
Just a 16 | Boys & Girls | 実際の事件を題材にした曲。高速道路で16歳の女の子が事故死したが、どこかから家出してきたその子について、仲間が知っているのは名前だけで、それ以上のことは誰も知らない、と歌われる |
トラブルド・キッズ | トラブル中毒 | 21世紀に聞くと、通り魔事件やニート、引きこもりなどを連想させる、ひとりぼっちの男を歌った曲。実際の事件を題材にしたと聞いた気もするが、よく覚えていない。「お前は友達も無く恋人も作らないで毎日コンピュータと部屋の中で戯れている」「ほんのはずみでお前はブレーキが効かず走りすぎた」 |
あの娘は アトミック・ガール |
砂丘1945年 | 1945年、広島と長崎に落とされた原爆を、ラブソングのような歌詞にして歌う。サビで「あの娘はAtomic Girl」とリフレインし、最後に「Atomic Bomb」と叫ぶ。 |
MURDER GAME | SYMPATHY | 実際に起きた、幼い子供が被害者の殺人事件(※)を題材にした曲。(※宮崎勤の事件ではないが、リリース時期が宮崎勤逮捕と近くなってしまっため、この曲は放送禁止になった) |